Twitterでお世話になっているあきあかねさんに頂きました!
スタツアに失敗して、血盟城からは少し遠い廃屋に飛ばされた。
最近は上手く行ってたし、今日は村田もいないから成功すると思ったんだけど……まだ魔力が安定してないってやつなのかな。
しかも眞王廟への知らせはかなり早く伝わってしまったらしく、迎えに来たコンラッドに待ちぼうけをくらわせてしまった。しかし彼は何でも無いように「陛下がご無事で安心しました」と笑うけれど。
それにしても、昼なのに建物の中が随分と暗い。天気でも悪いのかと思っていたら、コンラッドが「すみません、城を出たときは晴れていたので、雨具をあまり持っていなくて」と、今度は苦々しい顔をしながら言った。なるほど、外は雨が降りそうな天気なのか。
「それなら、早く血盟城に行こうぜ。もう濡れるのは……」
勘弁してほしい、と言いかけた言葉は、バケツをひっくり返したような雨が屋根を叩く音にかき消された。
イッキに降るってことは、イッキに止むってことだろ!
俺のその軽い提案にコンラッドは軽く頷いて、しばらく雨宿りをすることにした。
廃屋の屋根は以外にも丈夫で、雨漏りの雫が落ちてくる心配は無さそうだ。
「陛下、しっかり体を拭いてくださいね。お風邪を召したら大変ですから」
「大丈夫だよ。勝利に普段から、ナントカは風邪引かないーって言われてるくらい俺丈夫だし!ていうか、陛下って言うなよ名付け親」
「すみません、ユーリ。俺はユーリは聡明だと思うけどな。勉強だって、最近は脱走せずに真面目にやっているでしょう?」
「全然聡明なんかじゃないよ!それは王様としてっていうか……」
眞魔国の歴史なんてまだ半分も覚えてないし、地球では赤点の数がなんとも減らない。これが野球だったら上達は早いのだが、数字や年表だと思うとからっきしダメで頭が痛くなるのだ。
「そうやって頑張ってくれるのが、俺達国民にとっては何事にも変えがたいくらい嬉しいんですよ」
コンラッドはいつも通り穏やかに笑った。そう言ってもらえるのは嬉しいけど、コンラッドみたいな身近な人に褒められると少しだけ照れる。
「俺なんてまだまだだよ。コンラッドみたいに、その、身を削って国に奉仕してる訳じゃないし。いや、身を削りたい訳じゃないんだけどさ」
ルッテンベルグの戦いで多くの仲間を失って、ジュリアさんも失って、自身も大きな怪我をした。でも、それでもこの国が好きだと言ってくれる。俺はそんな人を守らなくちゃいけないと思う。
「その通り、そんな日は来ない方がいい」
真面目な顔でコンラッドはそう言って、それから真っ直ぐに俺を見つめた。
「でも、もしそんな日が来たら全力でお護りします」
「手でも胸でも命でもーってやつ?だから胸とか命はいらないってば。それに、俺は平和主義なの。どんなに分からずやでも戦争なんてしないで、話し合いで解決してみせるよ」
「そうですね、すみません」
コンラッドは安心したように笑った。もう失わせちゃいけない。コンラッドから大切な人を。
「きっと、あなたなら出来る」
違うよ、俺だけじゃない。みんなが助けてくれるから出来るんだ。
「そろそろ雨が弱くなってきましたね。帰りましょうか」
「えっ、でも、雨具は持ってないんじゃないの?」
「これだけ、いつも持ち歩いているんです」
コンラッドの手の中にあったのは一本の雨傘だった。なるほど、土砂降りは無理だけど、弱い雨ならしのげそうだ。
「ここからなら城へは歩いて帰れますか
ら」
そう言ってコンラッドは傘を広げた。濡れないようにくっついて隣を歩く。
「俺、小さい頃傘さすの好きだったんだよね」
「どうして?」
「傘の中で歌うとさ、自分の声が綺麗に聞こえる気がするんだよね。何となくだけど」
「ああ、何となくわかる気がします」
コンラッドはそう言って鼻歌を歌い始めた。何だっけその曲、アメリカ製のうっとりしたやつ。ほんとあんたその曲好きだよな。
俺もコンラッドが歌ってるの聞くの、好きだよ。
傘の中、弱い雨音。コンラッドの声ってこんなにいい声だったっけ。
「ユーリ、どうしました?」
「いや、コンラッドっていい声だなーと思ってさ」
「そうかな。俺はユーリの声も好きですよ」
いやいや、本当にいい声だよ。ずっと聞いてたいくらい。
「ねぇ、もう一回名前呼んでよ」
気づいたら、そんな言葉が口をついていた。
「ユーリ?」
「俺、あんたの声好きだ」
嘘、本当は声だけじゃない。
全部好きだ。
相合傘。右にはあんた、左には俺。
真ん中にある傘の柄が、少しだけ憎らしい幸せな雨の日。
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